【読書感想文】『ご冗談でしょう、ファインマンさん(上下)』を読みました


ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉 (岩波現代文庫)

ノーベル賞を受賞した有名な物理学者、リチャード・P・ファインマンの自伝。ただし、物理の話はびっくりするほど出てこない。

ファインマンさんは非常に有名かつ大物な物理学者なのですが、その人生はかなり自由。超自由。物理学者のくせにサンバの音楽に魅了されてブラジルに移住したあげくプロのサンバ楽団で活動したり、かと思いきやラスベガスで金持ちの付き人のマネごとをしたり、新婚旅行先でマヤの暗号解読に精を出したり(当たり前だけど物理学とは何の関係もない)、知り合いの科学者のところに入り浸って幻覚の研究をしたり(やっぱり物理学と関係ない)、金庫破りの技をマスターしたり(もはや意味がわからない)、数えきれないほどの自由なエピソードが飾らない言葉で描かれています。

私はまったくファインマンさんのことを知らず、予備知識ゼロ+物理学の知識ゼロですが、ものすごく楽しめました。物理学の話、出てこないし。

ぜひ私も自由な感じで人生を楽しみたいと思ったので、積極的にマネしたいファインマンさんのすごいところをちょっと挙げてみたいと思います。

ファインマンさんのすごいところ1:相手が誰でも率直にモノを言う。

ファインマンさんがまだ若かったころ、超偉い物理学の教授が唱える意見に対して、率直に「それはおかしい、どこに目を付けて言ってるんだ」という率直すぎる反応をしてしまいます。自分の専門である物理学において、「おかしい」と思ったら相手が誰であろうと議論をふっかけ、罵り、論破しようとする。それが結果として、ファインマンさんが「ちゃんと議論ができる人間」であると印象づけ、周囲の信頼を勝ち取る結果になります(本人は、おかしいからおかしいと言っただけ、というのですが)。イエスマンだらけの昨今、こういう姿勢は見習いたいものです。

ファインマンさんのすごいところ2:強すぎる好奇心

ファインマンさんは色んなことに興味を持ち、そしてすぐに研究を始め、納得いくまで根気よく続けます。例えばアリが餌を巣まで持ちかえるメカニズムに興味を持つと、その場で一日中アリを観察したり、(あくまでアリを殺さず人道的に)実験を繰り返します。間違っても「後で調べよう」とか、「いつかやってみたいな」なんて先延ばしにしません。なにかというと先延ばしにする上に、インターネットでちょっとググって分かった気になってしまう昨今、こういう強い好奇心、いつまでも持ち続けたいものです。

ファインマンさんのすごいところ3:自分がやりたいことをやる(やりたくないことはやらない)

ファインマンさんは、常に自分がやりたいと思ったことをやります。物理学者という枠にとらわれず、音楽や絵画など、そのときやりたいと思ったことをトコトンやります(どれもド素人以下、しかも歳を取ってからスタート)。同時に、納得いかないことはやりません。役所から講演の仕事を受けたとき、「13回以上サインはしない」という約束で講演を受け、講演料をもらうためのサインが14回目だったために講演料を受け取らなかったりしました(※もちろん役所の人は、払うべきお金が払えないとそれはそれで困るのですが)。「お金の問題じゃない」として、お役所仕事には徹底的に楯突きます。一見子供みたいなそういう姿勢、良識ある大人なら非常識だ!と非難すべきところかもしれません。でも、自分の一度しかない人生を、自分の納得するように生きるために、こういうきっぱりした姿勢を貫くのはとても大事で、同時にとても難しいことだと思いました。

すごいぜファインマンさん

ノーベル賞受賞の科学者というと、偉そうで、いかにも学者さんで、神経質で、まじめに科学一本でやってきました!という人を想像してしまいますが、そんなイメージをハンマーでぶっ叩いて徹底的に原型を破壊してそのまま放置したような自由すぎる男性の生き方が、本書には詰まっています。ノーベル賞ってこんな感じで受賞できるんだ、しかも受賞のお知らせを聞いてめちゃくちゃ嫌がる人がいるんだ(笑)と、自分の中の常識がガラガラと音を立てて崩れていきそうです。新しいことに挑戦したくなくなったり、生活することに(というか生活レベルを落としたくないことに)精一杯で、自分のやりたいことが全然できていない人生を送りがちな昨今。ファインマンさんのような生き方を知り、自分の可能性を自分で締め付けたりしないよう反省したいものです。

全体を通してはかなり笑える、いたずら好きで自由人なファインマンさんの人生が楽しくて仕方がない上下巻。一読してみてはいかがでしょうか。