【読書感想文】『動物は何を見ているか』を読みました

動物は何を見ているか
動物は何を見ているか

プログラムがどうしたとかコンピュータがどうしたとか、そんな本ばっかり読んでると頭がピコピコの残念電子野郎になりそう。残念電子野郎ってなんだろう。

っというわけで読んでみたのがこちらの本。適当にタイトルで選んだので、内容も筆者さんのことも一切知らなかったのですが、読んでみるとこれはもう非常に楽しい一冊でした。

本書は動物行動学者である日高敏隆さんの、半分自伝、一部が動物行動学、それからエッセイといった内容。日高さんの生い立ちから始まり、昆虫の生態を中心に、バリエーション豊かなエッセイが楽しめます。どのエピソードも日高さんの広い知識と鋭い考察をもとに書かれており、いちいち新しい発見があってすごいです。こんな適当な感想文を読んでる場合じゃないよ。ほんとだよ。

なぜ勉強するのか

内容が広範でいちいち感想を書いていくと途中で飽きそうなので、気に入ったエピソードをいくつか紹介したいと思います。

少年時代、軍国主義の学校でつまはじきものにされ、自殺を考えた日高さん。それを救ったのはひとりの素晴らしい先生なのですが、その先生の「どうして勉強しなきゃいけないの?」に対する回答が素晴らしいんです。

(P.23より引用)

お許しがでたのだからしっかり昆虫学をやれ。だけど、昆虫学をやるからといって、虫ばかり見ていたのじゃだめだぞ。まず、本を読まなければいけない。それには国語が要る。その虫は世界でどこにいるのか。それには地理が要る。いつごろから日本にいるのか。それには歴史が要る……。本といったって日本語の本だけじゃだめだ。それには中学に入って英語の勉強をしなくては。わかったな?

こんな完璧な「勉強しなきゃいけない理由」が出てくるなんて…素敵…抱いて…
とりあえず子供が小学生になったら使いたいと思います。忘れないように手に彫っておこう。

自然と人間の共生?

よくテレビで「大自然の調和が」みたいな言葉が使われますが、日高さんによれば自然はもっと利己的で、要するにみんな自分勝手に生きてるだけなんだそうです。果実が甘くなるのは他の動物に食べさせて、種を運んで欲しいから。種が未熟なら果実も栄養がなかったり、あまつさえ毒があったりします。種が熟すと美味しくなって、しかも毒までなくなっちゃう。ボランティアでやってるわけじゃないんです。

種の保存を考えてるってのも嘘。サルやライオンのハーレムでは、新しくリーダーになったサルが、前のリーダーの子を殺そうとします。自分の遺伝子じゃないから。ちなみに母サルも子供を捨てます。もっと強いリーダーの遺伝子を残したいから。みんな勝手です。資本主義経済と同じ競争社会。だから、自然と人間の調和なんてありえません。あるとすれば、両者にとって都合の良さそうな落とし所があるだけ。

大昔に潜入した大学の講義で、やっぱり同じようなことを言う教授がいたのを思い出しました。スタジオジブリの「もののけ姫」は素晴らしい作品だけど、「自然は偉大、すべて自然に任せておけばオッケー」みたいな描き方をされているのがよろしくないとかなんとか。
自然は勝手に拡大していこうとするだけで、人間にとって都合の良い自然にはならないぜ!あいつら適当だぜ!という考え方は、生物学とかそういう範疇では今やスタンダードなのかもしれません。

クローンとか大自然的には古いすぎてダサい!?

クローン技術の倫理観が時々話題になりますが、日高さんはそもそも「クローンは損」と言い切ります。損って。というのも、クローンで同じ性質の個体ばかりになると、気候変動やウイルス、その他あらゆる影響であっという間に全滅する可能性が高くなるんですね。そういう危険性があるから、自然界では面倒でも「男と女(オスメス)」という仕組みをとっている。男と女がくっついたり別れたりして、遺伝子の多様性をキープする。細胞分裂で自己増殖、という原始的な生物も存在しますが、それじゃ外的リスクに対して弱すぎるから、長い目で見ると楽だけど損だぜ、ということです。

長い生物史の中ではクローンにしてみようと思ったこともあったけど、とっくの昔に廃れている。今は「男と女」がスタンダードよ?えっ何、人間って今更クローンとかやってるの?クローンが許されるのはカンブリア紀までだよねー!キモーイ!キャハハハハハー!という感じでしょうか。適当に書いています。大丈夫です。

医療技術や上質な家畜の量産っていう点では非情に有用なクローン技術ですが、何かの拍子に一網打尽になる可能性を忘れないようにしたいですね。しかし倫理観がどうした、道徳が、魂が、という主張の押し付け合いになりがちなクローンの議論に、感情論を飛び越して「損」とはっきり言い切る点は面白いとしか言い様がないです。損って。損ならダメだな。得したいもんな。

本を読むって素晴らしい

本書では、他にも「環世界」の考え方(動物、昆虫に世界はどう見えているのか?)や「自然の美しさの背景にある本質」など、一見難しい内容を非情にわかりやすく書かれています。どれもちょっぴり世界の見方が変わる、ちょっと面白い内容です。

本書を読んで改めて、自分の得意分野と全く関係ない本を読むことの面白さや得られる体験の大きさが認識出来ました。さーて引きこもって本でも読もーーーっと。